今週のお題「運動不足」
高校に自転車で通っている時期があった。
実家は坂の上の方にあったため、「行き」は下り坂で楽チン、「帰り」は坂の途中まで登って、途中からは自転車を押して帰るのが常だった。
そんなある夏の日の帰り道。
ティーンの僕は考えた。
頑張ったら、家までの坂道、1回も足を地面に着くことなく登りきれるのではないか?
なんでそんなことを考えたのか?
分からない。
それを達成したところで、何がもらえるわけでもない、誰に誇れるわけでもない。コストに見合う見返りはないのだ、今の年齢の自分から見れば。
若さ。
深く考えない若さ。
損得を考えない若さ。
若さが僕を突き動かした。
僕は坂道の手前の平らな道で、なるべく勢いをつけて家へと続く坂道に戦いを挑んだ。
途中、階段の踊り場的な平らな箇所が少しあるものの、基本はずっと坂道、400〜500メートルぐらい続く坂道を僕はひたすら登っていった。
ティーンだったとはいえ、さすがに息は上がり、足は徐々にパンパンになっていった。
やめたって誰も何も言わない。
でも僕は自転車を漕いだ。そして、登りきった。
家にフラフラになりながら入り、パンパンになった足を誇らしげに見ながら、僕は途中のコンビニで買った500mlパックのイチゴミルクを勝利の美酒として流し込んだ。
時は流れ、あれから30年近くたったある日。
その朝、娘と奥様は学校に2で人出かけていった。
学校で行事があったのだ。
僕は2人を見送ると、のんびりとテレビを観ていた。
しばらくして、スマホが鳴った。
奥様からだ。
「子供の上着を忘れてしまったの。悪いのだけど届けてくれないかしら。学校の前で待ってるから。」
「すぐ行くよ。」
僕は、子供の上着を持ち、玄関に置いてある自転車の鍵を取って、車庫に向かった。
車で行くことも考えたが、子供が多い時間帯なので僕は自転車をチョイスしたのだ。
あの実家の坂道を制覇してから、世の中は進歩している。僕は当時は存在すらしていなかったであろう電動アシスト自転車に颯爽(さっそう)とまたがり、愛する奥様と子供の待つ学校に向かった。
急ぎなのでギア比は重くしてスピードをあげた。電動アシストとはいえ、負荷が0なわけではない。安全に気をつけつつ、僕は自転車を漕いだ。家からしばらくは平らな道だ。グングン進める。が、ちょっと息が荒くなってきた。
確かに、もうティーンではないのだ!
電気の力も歳には勝てないのか!?
でも負けるわけにはいかない。愛する2人が待っているのだ。構わずペダルを踏み込んでいった。
更に上がる息。乳酸の貯まる太もも。
まだ平らな道なのにっ!
平らな道は終わりを告げようとしていた。あの角を曲がると、学校まではずっと坂道だ。
僕は自分を奮い立たせ、更にペダルを踏み込んだ。坂道に勢いよく突入するために。
スピードのロスを最小限に抑えてコーナーを曲がり僕は坂道に突入した。
約30年前とはいえ、あの難攻不落、前人未到の坂道を制覇した僕である。
ましてやこの坂道の先には愛する家族が僕を待っているのである!
やれないわけがないっ!
(電気の力を借りて)登りきってやるぜっ!
ぐはぁ!!!ひぃーひぃー。うぇーー。。。
5メートルぐらい登ったところで、あっけなく僕の足は止まった。
息は完全に上がっていた。心臓、こわれるー。肺、破れるー。くるしー。つらーい。動きたくなーい。上着忘れるなー。もっとしっかりしろー。家出る前に指差し確認だろうがー!忘れ物したんなら自分で取りに帰ってこーい!ダッシュ、ダッシュ!
愛の力。あまりに無力。
僕は、ハァハァ言いながら鉄の塊となった自転車を押して坂道を進んだ。
見上げれば永遠に続くんじゃなかろうかという坂道。
止まりたい。休みたい。
ふと目線を落とすと、違和感が。
んっ?
んんんっ?
んんんんんんっ????
電源入ってなーーーーい!!
電動アシスト自転車の、、、電源が、、、入って、、、いない、、、
電動「NO」アシスト自転車。
重いバッテリーをただ積んだだけの自転車。
ポキン。。。
自分の愚かさに心が折れた。
その後の記憶はあまりない。
頑張って上着はちゃん届け、
どうやって帰ったか覚えてないけど家に帰った僕は身も心もボロボロな状態で、一人ほうじ茶をすすっていた(と思う。)
☆今回の教訓
降りかかる困難を勢いで解決するほどの体力はもうない。指差し確認を怠らないようにしよう!
「運動不足」とは関係ないけど、ティーンの頃は甘〜い甘〜いイチゴミルク500mlを難なく飲み干せていた。若いってすごい。今はもう無理。ほうじ茶ラブ。
おしまい